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大阪地方裁判所 昭和28年(行)35号 判決

大阪市東住吉区田辺本町六丁目四番地

原告

安井与三郎

大阪市東住吉区田辺東之町五丁目

被告

東住吉税務署長

三宅章

右指定代理人

大蔵事務官

宗像豊平

上田尾優

藤島良忠

右当事者間の昭和二八年(行)第三五号課税処分取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和二十七年三月三十一日原告に対してなした原告の昭和二十六年度の所得金額を金三八八、六〇〇円とした更正決定のうち、金二七九、一二三円を超過する部分はこれを取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、(一) 原告は昭和二十六年度の所得税につき、所得金額を金三〇〇、〇〇〇円とする確定申告書を被告に提出したところ、被告は、原告の右申告に対し、昭和二十七年三月三十一日附で、原告の昭和二十六年度の所得金額を三八八、六〇〇円と更正する旨の決定をしたので、原告は被告の右更正決定に対し被告に再調査の請求をしたところ、被告はこれを棄却する旨の決定をなした。よつて原告は、右棄却決定につき大阪国税局長に対し審査の請求をしたところ、右大阪国税局長は昭和二十八年三月十二日、原告の右審査請求を却下する決定をし同月十四日、原告は右決定通知をうけた。(二) しかしながら原告の昭和二十六年度の真実の所得金額は二七九、一二三円である。従つて被告の右更正決定のうち原告の右所得金額を超過する部分は違法であるから、これの取消しを求めるため本訴に及んだと陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、原告が被告より再調査請求棄却決定の通知書を受領したのは昭和二十七年八月十日であるから、原告が大阪国税局長に対してなした右審査請求は所得税法第四九条第一項に定める期間内に適法になされたものであると述べ、証拠として甲第一号証を提出し、証人樋口喜雄の証言を援用し乙号各証の成立を認めた。

被告は主文同旨の判決を求め、本案前の答弁として、原告主張の請求原因事実中(一)の事実は認めるが、本訴は訴願前置の要件を欠く不適法な訴である。即ち、原告は被告に対し昭和二十七年四月二十八日再調査の請求をなし、被告はこれに対し同年八月四日棄却決定をなし、その通知書は同年八月六日原告に到達しているのであるが、原告はこれに対し所得税法第四九条第一項に定める期間を徒過した後である同年九月十日に至り大阪国税局長に対し審査請求をなしているから、右審査請求は不適法であり、よつて本訴は訴願前置の要件を欠くので訴の却下を求める。と陳述し、証拠として、乙第一、三、四号証(第二号証は欠番)を提出し、甲第一号証中「八月十日受付」との記載部分は不知であるが、その他の部分の成立は認める。と述べた。

理由

先ず本訴の適否について判断するに、原告主張の請求原因事実中(一)の事実は当事者間に争がないが、本件再調査決定の通知書が原告に送達された日時につき、原告は昭和二十七年八月十日と主張し被告は同月六日と主張するので検討すると、証人樋口喜雄は、原告は税務署関係の郵便物については常にその封筒に受取日付を記入する癖がある旨供述し、同証言により原告が記載したことが認められる甲第一号証(封筒)の受付記入部分には「八月十日」なる記載があることが認められるが、右記載の真実性は後記乙第一、四号証に対し到底是認することが出来ず、他に原告の主張を肯認するに足る確証もなく、却つて成立に争がない乙第一、四号証によれば本件再調査決定の通知書は昭和二十七年八月五日被告より書留郵便を以て原告に宛て発送され、翌六日被告に配達されている事実が認められる。そして、成立に争のない乙第三号証によれば原告が本件審査請求をしたのは昭和二十七年九月十日であることが認められるので右審査請求は所得税法第四九条第一項に定める一箇月の期間を経過したのちになされた不適法な審査請求であると言わねばならず、従つて大阪国税局長が右審査請求を却下したのは当然であり、原告の本訴は、訴願が不適法なために行政庁の実質的な訴願の裁決を経ずして提起されたものであつて、行政事件訴訟特例法第二条及び所得税法第五一条第一項本文所定の訴願前置の要件を充足しないものといわねばならない。そしてこの欠缺は補正することが出来ないから、本訴は不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮川種一郎 裁判官 奥村正策 裁判官 鍬守正一)

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